元祖大師御法語 前編
第三十 一期勧化
法蓮房申さく、古来の先徳、みなその遺跡あり。
しかるに、いま精舎一宇も、建立なし。
御入滅の後、いずくを、もてか、御遺跡とすべきやと。
上人答え給わく、あとを、一廟にしむれば、遺法あまねからず。
予が遺跡は、諸州に遍満すべし。
ゆえはいかんとなれば、念佛の興行は、愚老一期の勧化なり。
されば念佛を、修せんところは、貴賎を論ぜず、海人漁人が、とまやまでも、みなこれ、予が遺跡なるべしとぞ、おおせられける。
法蓮房信空が尋ねていった。
「古来の先徳にはすべて遺跡があります。
ところが今もって堂宇一つお建てになったことがありません。
もしご往生になった後には、どこをご遺跡としたらよいでしょうか?
上人答えていった。「遺跡を一つの堂に決めるとすれば、念仏の法門が行き渡らぬことになる。
自分の遺跡は全国津々浦々に行き渡るであろう。
何故なら念仏の法門を広めることは愚老が生涯を通じて勧めてきたことである。
されば、念仏を唱える者がいる所は貴賎を論ずることなく、海辺にある漁師の小屋にいたるまでがすべて自分の遺跡となるのである。」